テレワーク実施時の長時間労働防止対策を工夫することで、健康で豊かな生活のための時間の確保を図っている。
■制度の整備状況
2007 年に「在宅勤務細則」を制定して、在宅勤務を導入している。2017 年より在宅勤務だけでなく、サテライト勤務やモバイル勤務も可能なテレワーク制度に変更し、規定も「リモートワーク細則」に改めた。
〈リモートワーク細則のポイント〉
○全社員が対象で、月 8 回までは人事部門への特別な申請は不要で、上長の承認のみで実施できる。
○妊娠・育児・介護といった事情がある場合には、人事部門への申請の上、月 8 回を超えて実施できる。
○在宅勤務については、自宅だけでなく一親等以内の家族の住む実家でも実施可能としている。
■経営上の位置付け
2013 年より働き方改革に本格的に取り組んでおり、その施策の一つとして、2015 年より「どこでも WORK」を推進している。「どこでも WORK」は、オフィスの自席を前提としない働き方であるリモートワーク(テレワーク)を中心に、その制約となる紙を前提としない働き方へのシフトを目指す「ペーパーダイエット」、そしてオフィスのありようから働き方を変える「フレキシブルオフィス」の施策を三位一体で推し進めるものである。
テレワークの導入形態
終日在宅勤務 部分在宅勤務
モバイルワーク サテライトオフィス
テレワークの利用者数(過去 1 年間) 4,675 人
「どこでも WORK」の浸透・定着に向けて、全事業部門の役員クラスを委員メンバーとした「どこでも WORK 推進委員会」を設置した。この委員会において、各部門のリモートワーク(テレワーク)実施状況(数値)と成功事例を共有した。さらに、委員会での討議内容を、経営層からのメッセージとして繰り返し社内へ発信することで、浸透と定着を推進した。
■周知・啓発方法
【説明会の実施】
「どこでも WORK」を新たに始める組織に対しては、説明会への参加を義務付けた。説明会は 2015 年〜 2017 年 7 月までに 55 回開催し、社員の半数に当たる約 3,500 名の社員が参加した。
【マニュアルやガイドブックの整備】
リモートワーク(テレワーク)を始めるにあたって必要な制度面、IT 面でのマニュアルを整備した。制度面では、規程や手続き、セキュリティなどの観点から、本人と上長の双方が知っておくべき情報をまとめた。IT 面では、自宅等からリモートワーク(テレワーク)を行うための設定方法や、在席管理システム・チャットツールの活用方法、Web 会議の開催方法などについて必要な事項をまとめた。
「場所にとらわれない柔軟な働き方」を目指し、3つの施策を三位一体で推進自席を前提としない働き方
● 月に2~3回程度の在宅/サテライト勤務
● ICTをフル活用し、リモート環境でも自席と同様に働く
紙を前提としない働き方
● 印刷(▲50%)と保管量(▲50%)の削減
● ペーパーレス会議の推進と定着化
生産的・効率的なオフィス
● 多様な働き方スペースの新設
● フレックスアドレスと個人ロッカーの導入
【ホームページの開設と広報誌の発行】
どこでも WORK 推進委員会のホームページを開設し、説明会資料やマニュアル類に加え、
経営層のメッセージや、各種 IT に関する動画マニュアル、FAQ 集を整備している。また、
どこでも WORK に特化した広報誌「どこでも WORKER」を定期的に発行し、先行実施部
門へのインタビュー記事や他社事例の紹介などのプロモーションを実施している。
■人事・労務管理の整備
勤怠管理システム上で「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」の日程および労働時間を申
請し、上長の承認の上で実施している。始業・終業時にはオフィスに出社する際と同じように
勤怠システムへの打刻を義務付けている。あわせて、始業時には当日の勤務予定や具体的な業
務内容を、終業時には業務の進捗をメールなどで上長と共有する運用としている。
また、リモートワーク(テレワーク)の推進が長時間労働を誘発することのないよう、リモー
トワーク(テレワーク)による深夜および休日勤務は「リモートワーク細則」で禁止している。
ただし、保守や運用に関する業務、その他やむを得ない事情がある場合には、例外的に認めて
いる。深夜および休日以外での時間外勤務については、テレワークに関するガイドブック内で
控えるよう推奨している。
さらに、リモートワーク(テレワーク)利用者が勤怠管理システムに正しく勤務実績を登録で
きているか確認するため、リモートアクセスのログをモニタリングしており、勤務時間と一定の
乖離がある場合には、人事部門から対象者の上長に情報提供し、各上長から該当者に状況を確認
している。各上長から該当者への状況確認の結果、乖離している時間での勤務があった場合は、
勤怠管理システムの勤務実績の修正等の必要な処理を行うとともに、長時間労働防止および適切
な勤怠管理を呼びかけている。
■情報通信環境の整備
【在宅勤務】
リモートワーク(テレワーク)利用者は、自宅パソコンからオフィスパソコンを遠隔操作
することで、オフィスと全く同じパソコン環境で業務を遂行することができる。
また、リモートワーク(テレワーク)利用者全員にヘッドセットを配布し、Web 会議用の
ソフトのインストールを必須とすることで、自宅とオフィス間での音声通話を可能としている。
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さらに、オフィス側の全ての会議室にスピーカーとプロジェクターを設置しており、在宅
勤務者の Web での会議参加を可能にしている。
【サテライトオフィス勤務】
全国に 9 拠点、合計で約 70 席のサテライトオフィスを設置し、自宅に在宅勤務をする環境がない社員がリモートワーク(テレワーク)を実施できるように環境を整備している。サテライトオフィスには共用パソコンを設置しており、社内ネットワークへのアクセスを可能としている。また、導入当初には、リモートワーク(テレワーク)を新たに始めるにあたって、IT 面・業務面で不安がある社員のために、拠点内にサテライトオフィスと同等の「体験エリア」を設けた。
【モバイル勤務】
客先駐在で勤務する社員を中心に、約 3,000 台のタブレット端末を貸与することで、会社情報の取得や本社勤務者とのコミュニケーションの円滑化を図っている。客先駐在拠点にも、極力、自社システムへリモートアクセス可能なネットワーク、パソコンを設置して、業務効率化を図っている。
ワーク・ライフ・バランスに関する事項
■健康で豊かな生活のための時間の確保
【労働時間の工夫】
リモートワーク(テレワーク)利用者はフレックスタイム制や裁量労働制で勤務することにより、時間を有効に活用して働くことができる。フレックスタイム制については、2017年にコアタイムを廃止し、5:00 〜 22:00 までの間で柔軟に働くことができるよう制度を改定した。こうした取組も功を奏し、2017 年 3 月と 2018 年 3 月のリモートワーク(テレワーク)
実績を比較すると以下のように増加した。
・実施人数:1,075 人→ 3,236 人(201%増加)
・実施回数:3,150 回→ 9,479 回(201%増加)
また、リモートワーク(テレワーク)の利用が長時間労働を誘発することがないよう対策を行っているほか(「人事・労務管理の整備」の項目を参照)、管理職を含めて勤務時間の適正な申請が浸透したことや、時間資源を意識して効率的に働くことが組織文化として定着したことも、リモートワーク(テレワーク)をスムースに実施する上で、大きく寄与した。この結果、「どこでも WORK」展開前の 2014 年度と、本格的に全社展開した 2017 年度を比較すると、全社の月当たりの平均残業時間(所定就業時間 7 時間 30 分をベースに算出)が 18 時間 16 分から 16 時間 22 分に 1 時間 54 分(10%)削減された。
■就労による経済的自立、多様な働き方・生き方の選択
【多様な人材の活躍】
シニア層の社員や障がいをもつ社員については、個々の状況に応じて、リモートワーク(テレワーク)を活用した柔軟な働き方を認めている。月 1 回以上のリモートワーク(テレワーク)実施状況は以下の通りである。
・60 〜 64 歳の社員のリモートワーク(テレワーク)利用数:177 人中 115 人(65.0%)
・65 歳以上の社員のリモートワーク(テレワーク)利用数:14 人中 11 人(78.6%)
・障がい者のリモートワーク(テレワーク)利用数:44 人中 22 人(50.0%)
【育児・介護と仕事の両立】
妊娠や育児、介護についても、会社が認めた場合には原則月1回以上の出社を要件として月 8 回を超えるリモートワーク(テレワーク)の利用を認めている。
また、社内広報誌や社内ポータルサイトを通じて、リモートワーク(テレワーク)等を活用した仕事と育児および介護の両立事例を紹介し、多様な働き方を推進する風土醸成を加速させている。
実施状況は以下の通りである。
・妊娠や育児や介護を理由として、月 8 回超リモートワーク(テレワーク)を利用している人数
2014 年度:16 人、2015 年度:19 人、2016 年度:49 人、2017 年度:67 人
・短時間勤務からフルタイム勤務への復帰率:2014 年度 1.6%→ 2017 年度 12.7%
■社員の満足度
2017 年 10 月に全社員を対象に実施したリモートワーク(テレワーク)に関する社内アンケートにおいて、リモートワーク(テレワーク)利用者から以下のような肯定的な回答が多く得られた。
・仕事の生産性が向上・維持した :87%
・生活の質が向上・維持した :98%
・育児・介護の際に有用である :90%
・今後もリモートワーク(テレワーク)を実施したい:98%
他社の模範となる取組に関する事項
■労務管理上の工夫
一般社員がリモートワーク(テレワーク)を利用しやすくするため、特に管理職(本部長、部長、
課長)が自ら実践することで積極的なリモートワーク(テレワーク)利用を促している。管理職は、ある程度の義務感を持ってリモートワーク(テレワーク)を体験することで、リモートワーク(テレワークて)利用が業務の生産性に影響を与えないことを体感している。自ら実践しいるため、適正な評価がなされている。
2017 年度より、一般社員向けには、リモートワーク(テレワーク)の実施回数に応じて、リモー
トワーク(テレワーク)実施時の水道光熱費に見合う手当を支給している。2017 年度に限り、上長の率先垂範を促してリモートワーク(テレワーク)をスピーディーに定着させる仕組みとして、管理職のリモートワーク(テレワーク)実施回数に応じて、一般社員向けの手当を増額する取組も実施した。
■環境整備上の工夫
リモートワーク(テレワーク)の実施にあたっては、以前は人事部門を含む正式な申請手続きを要したが、有給休暇取得と同レベルの簡便な手続きに変更し、勤怠管理システム上での事前申請と上長の承認のみで実施できるようにした。
また、リモートワーク(テレワーク)実施中の社外との電話に関しては、個人所有のスマートフォンを BYOD 活用(私物端末の業務利用)することで、個人の費用負担なくオフィスと同等のコミュニケーションが取れる仕組みを構築している。
セキュリティ対策の面では、個人所有パソコンへの業務データの保存や印刷ができない仕様にしており、情報の漏洩を抑止している
■生産性向上の工夫
自宅やサテライトオフィスでの勤務を推進する「リモートワーク(テレワーク)」と併せて、「リモートワーク(テレワーク)」の阻害要因となる紙を印刷と保管の両面から削減する「ペーパーダイエット」、フレックスアドレス制(部署ごとの着席ゾーンを設定したフリーアドレス制)や個人ロッカーの導入など、オフィスのあり方を変える「フレキシブルオフィス」の 3 つの施策を「どこでも WORK」と
して展開している。
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